第44回 嵐を呼ぶ男
現役の指揮者のなかで、大植英次ほど劇的な生を生きている人は少ないかも知れない。
始まりからしてそうだった。1990年のバーンスタイン最後の来日公演のさい、死を目前にして衰えていたバーンスタインから、演奏会中の一曲の指揮を委ねられる。健康上の理由だけでなく、バーンスタインはかつて自身が副指揮者だったときの経験から、こうした形で若い副指揮者たちに機会を与えることを好んでいたのだが、開演直前になって急にその事実を知らされた聴衆の一部が激昂、主催者に抗議する騒ぎとなった。
大植にとっては最悪の形での「デビュー」だったろうが、しかしむしろこの一件で彼の名が、音楽ファンの印象に残ったことはたしかである。そしてそれから時間をかけて大植は汚名を雪ぎ、知名度をますます高めてきた。1995年にアメリカのミネソタ交響楽団音楽監督へ抜擢されて大成功し、3年後にはハノーファー・北ドイツ放送交響楽団の首席指揮者となって欧州に地歩を築き、2003年には大阪フィルの朝比奈隆の跡を継ぐという難事を引き受けて、成功を収めつつある。
かと思えば、バイロイト音楽祭の指揮者を1年で降板するなど、とにかく話題に事欠かない「嵐を呼ぶ男」大植英次。EURO LIVE SELECTIONでは24日から3日間、彼の指揮を特集する。お楽しみに!
山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963生まれ。「レコード芸術」を始め、音楽雑誌、CDのライナーなどで活躍中。クラシックの演奏史の中に現代を位置づける活動を行っている。最近特に海外盤に目立ついわゆる「ヒストリカルもの」(放送局のライブ音源をCD化したものやSPやLPの時代の録音のCD化)には滅法強い。
山崎浩太郎のはんぶるオンライン
舩木篤也(ふなきあつや)
1967年生まれ。音楽評論家。「読売新聞」で音楽評を担当、「レコード芸術」「ぶらあぼ」など音楽誌に定期的に寄稿し、公演プログラムやディスクの解説、翻訳も手がける。特にドイツ音楽全般に関心あり。ワーグナーは生涯的なテーマだと考えている。演奏の前に、まずは作品を重んじたい。東京芸術大学ほかでドイツ語講師。共訳書に『アドルノ 音楽・メディア論集』(平凡社)
「EURO LIVE SELECTION」 大植英次指揮ハノーファー北ドイツ放送フィル
5月24日(木)、25日(金)、26日(土)22:00~24:00
出演:山崎浩太郎・舩木篤也/音源提供:BBC

