第31回 スペシャリストの枠を超えて
チェコ、オーストリアの名歌手たちをあつめ、オーケストラにウィーン・フィルを起用したこのシリーズは、優れたオペラ作曲家としてのヤナーチェクの存在を、国際的に知らしめるものだった。しかし同時に、そのシリーズの柱となっている指揮者がアメリカ生れのオーストラリア人で、東欧の血を引いているわけではないと知ったときには、不思議な思いをした。偏狭な本場主義を信奉しているわけではないが、演奏がいいだけにむしろ、何か落ちつかない気分だった。
それから四半世紀をへた今、1925年生れで80歳を過ぎたマッケラスは、オーストラリア人とか、ヤナーチェクのスペシャリストといった枠を超えた、一人の優れた指揮者として世に隠れもない存在となっている。銘木だけで建てた家を想わせる、華美ではないが艶やかさをもった響きと、ひきしまって無駄のない、厳しい構築感。
その彼がいま意欲を燃やしているのは、ドイツ・オーストリアの古典派音楽、とくにモーツァルトとシューベルトである。今回のBBC Concertでは、その二人の作品が聴ける。ブレンデルとのピアノ協奏曲は、セッション録音で全集が進行中だが、これは同時期のライヴなので、聴き較べも楽しみである。
山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963生まれ。「レコード芸術」を始め、音楽雑誌、CDのライナーなどで活躍中。クラシックの演奏史の中に現代を位置づける活動を行っている。最近特に海外盤に目立ついわゆる「ヒストリカルもの」(放送局のライブ音源をCD化したものやSPやLPの時代の録音のCD化)には滅法強い。
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