第30回 「明けの明星」の人
現在クリーヴランド管弦楽団の音楽監督をつとめるウェルザー=メストは、1992年から96年までロンドン・フィルの音楽監督だった。この演奏会はちょうどその時期のもので、偶然にもメスト33歳の誕生日にもあたっている。
私がこの指揮者の演奏を初めて聴いたのは、92年に東芝EMIから発売された、ロンドン・フィルとのブルックナーの交響曲第7番(91年プロムスでのライヴ)だった。ウェルザー=メストはその3年ほど前からEMIに録音を始めていたが、このブルックナーはライヴ録音だったので、興味がわいたのだった。
一聴して嬉しかったのは、そのリズムに弾力があっで、音楽に呼吸感があったことである。そうした要素は1970年以降のクラシックの録音には、めっきり耳にできなかったものだった。もうクラシックは、自分の好みとは正反対の方向に進みつつあるのだとあきらめかけていた、そんな時期に1960年生れのウェルザー=メストは颯爽と登場し、音楽に弾力を与えてくれたのだ。
ひょっとしたら、音楽はふたたび甦えりつつあるのかも知れない――そのときは正直な話、そこまでムシのいい予想はできなかったけれど、それから15年近くたった今、音楽は全体の傾向としてどんどん俊敏に、快活になってきている。嬉しい方向へと予想は外れたのだ。
ウェルザー=メストは俊敏なリズム感が復活する、その先駆けとして私たちの前に現れた指揮者だった。喜びをかみしめつつ、「夜明け」の頃の演奏会を聴いてみたい。
山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963生まれ。「レコード芸術」を始め、音楽雑誌、CDのライナーなどで活躍中。クラシックの演奏史の中に現代を位置づける活動を行っている。最近特に海外盤に目立ついわゆる「ヒストリカルもの」(放送局のライブ音源をCD化したものやSPやLPの時代の録音のCD化)には滅法強い。
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