第25回 偽作が化けて名作に
それに比べれば、音楽作品の場合は多くない。偽作と認定されているとか、その可能性が高いとかいうのはモーツァルトの世代くらいまでで、それ以降の作曲家の作品で、真贋を疑われているものはまずない。音楽作品というのが絵画や彫刻のような一品物ではなく、写したり印刷したりすることが容易にできる楽譜という形で大量に流通するものなので、専門家の目に触れないまま素人を騙してしまうことが難しいからだろう(作品そのものではなく、その自筆譜のような一品物なら、贋作はきっとたくさんあるに違いない)。
ところがロマン派以降の音楽の世界では、知名度の高い音楽家が自作を他人の作品と偽って発表し、好評を得てしまったというケースがある。有名なのはヴァイオリニストのクライスラーの事件で、擬古典風の自作を「イタリアの修道院に秘蔵されていた過去の作品」として、長いこと演奏会で演奏していた。
今回の「BBC Concert」でお送りする《キリストの幼時》も、もとはクライスラーの場合と同様にベルリオーズが「偽作」した曲である。フランス楽壇の形式主義と権威主義に悩まされ、作品を正当に評価してもらえなかった彼は、自作の合唱曲を17世紀後半のパリの宮廷音楽家の作品と偽って演奏し、見事批評家たちを騙して、からかってみせたのである。
この結果に気をよくしたベルリオーズは、その「偽作」を曲中に含むオラトリオを完成し、今度は自らの作品として初演した。この曲の清冽で静謐な美しい響きは、皮肉な冗談から生まれたものだったのだ。
山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963生まれ。「レコード芸術」を始め、音楽雑誌、CDのライナーなどで活躍中。クラシックの演奏史の中に現代を位置づける活動を行っている。最近特に海外盤に目立ついわゆる「ヒストリカルもの」(放送局のライブ音源をCD化したものやSPやLPの時代の録音のCD化)には滅法強い。
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