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連載コラム「CLASSICのススメ」

第15回 ワーグナー馬鹿一代

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ひとりのワーグナー馬鹿が、イギリスにいた。

イギリス人のくせに、ワーグナーの楽劇を指揮することしか眼中になく、それ以外の音楽にはほとんど目もくれなかった。

時は20世紀なかば、イギリスがオペラの大輸入国で、首都ロンドンのコヴェント・ガーデン歌劇場さえ、やっと自前のカンパニー(歌劇団)を常設したばかりの頃である。

ワーグナーのファンはイギリスにもけっして少なくなかったが、上演のさいには、ドイツから大指揮者を招いて指揮してもらうのが当然だった。コヴェント・ガーデンの指揮者陣に加えてもらっていたその男が、どれほど切歯扼腕しても、ワーグナーを指揮する機会は与えられなかった。

好きでもないイタリア・オペラばかり指揮させられた男は、投げやりになった。気難しい上に、独学の指揮はひどくわかりにくかったから、やがて男は指揮棒を取りあげられた。コヴェント・ガーデンの最上階、掃除係と共同の一部屋に押し込められ、歌手のコーチだけがその唯一の仕事となった。

ところが 1968年、63歳になった男が引退を考えはじめたとき、運命が変わった。ロンドンのもうひとつの歌劇団、サドラーズ・ウェルズ・オペラ(現在のイングリッシュ・ナショナル・オペラ)が突然彼のことを思い出し、《ニュルンベルクのマイスタージンガー》の指揮を彼にまかせたのである。

公演は大成功、天井裏から出てきた男は、イギリス最高のワーグナー指揮者として、熱狂的な人気を博することになった。

その名は、レジナルド・グッドオール。

7月31日のBBC Concertでは、彼の《ワルキューレ》第1幕などをお送りする。その「不器用な愛」の深さをお楽しみに。

(彼の生涯にご興味がおありの方は、洋泉社発行の拙著『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』をお読みください)。

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963生まれ。「レコード芸術」を始め、音楽雑誌、CDのライナーなどで活躍中。クラシックの演奏史の中に現代を位置づける活動を行っている。最近特に海外盤に目立ついわゆる「ヒストリカルもの」(放送局のライブ音源をCD化したものやSPやLPの時代の録音のCD化)には滅法強い。
山崎浩太郎のはんぶるオンライン

BBC Concert ~グッドオールの「ワルキューレ」~

7月31日(日)22:00~24:00

出演:山崎浩太郎/音源提供:BBC

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