TOKYO FM コミュニケーションズグループ

トップページ > 連載コラム「CLASSICのススメ」第11回 みんなが宇宙に興奮したころ

連載コラム「CLASSICのススメ」

第11回 みんなが宇宙に興奮したころ

「Classicのススメ」バックナンバー

近頃は、人類がかつて月に行ったことを、信じていない若者もいるとか。

あれはNASAの壮大なまやかしだったと主張する人さえいる。しかし私は、当時小学1年生だった自分が1969年7月20日のアポロ11号月面着陸の日に味わった、あの興奮が嘘だったとはとても思えない、とだけはいえる。

それは「科学の勝利」だった。その興奮がどれほどのものだったかは、持ち帰られた「月の石」が、翌年の大阪万博のアメリカ館の展示物になって、数時間待ちの行列ができた(ただの小さな石を観るために!)という事実でもわかるだろう。

さて、それから約1か月後のこと。ロンドンでは41歳のコリン・デイヴィスが、ホルストの組曲《惑星》を指揮していた。

この曲は、ホルストが占星術からイメージを得て書いたものだった。しかしこの1970年前後から、宇宙時代(当時はそう信じられた)にふさわしい音楽として、作曲家が予想もしなかったような形での人気を得はじめる。その曲を、ビーチャムやボールトたちの世代以来、イギリスに久々に出現した俊英指揮者が指揮したのだ(彼がこの曲を指揮するのは、このときが生涯初めてだったという)。それは新時代の幕開けにふさわしい、若々しい活力にあふれた演奏だった。

ところが不思議なことに、デイヴィスはこの《惑星》をなかなかレコード録音せず、1988年になってやっと録音した。なぜためらったのか、わからない。私が思うに、《惑星》の本質は宇宙時代にはないと、彼は考えたのかも知れない。その興奮がおさまるまで、待ったのかも知れない。

しかし、若きデイヴィスによる《惑星》は、たとえ「時代の勘違い」が生んだものだったとしても、熱く、とても魅力的である。その火照りを、6月5日の放送でお楽しみあれ。

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963生まれ。「レコード芸術」を始め、音楽雑誌、CDのライナーなどで活躍中。クラシックの演奏史の中に現代を位置づける活動を行っている。最近特に海外盤に目立ついわゆる「ヒストリカルもの」(放送局のライブ音源をCD化したものやSPやLPの時代の録音のCD化)には滅法強い。
山崎浩太郎のはんぶるオンライン

BBC Concert ~PROMS2001 コリン・デイヴィスの「惑星」~

6月5日(日)22:00~24:10まで延長

出演:山崎浩太郎/音源提供:BBC

「Classicのススメ」バックナンバー