第10回 砂を捲いて再び来たる
エッシェンバッハがかつてはピアニストであったことは、多くの方がご存じだろう。いやむしろ、ピアニストが余技で指揮をやっている人という印象を、いまだにお持ちの方も多いかも知れない。
ピアニスト時代の彼は、1960年代以降めっきり減ってしまったドイツ出身の数少ない優秀なピアニストとして、メジャー・レーベルのドイツ・グラモフォン(DGG)に独奏や歌曲伴奏のレコードを数多く録音していた。ところが、1970年代に指揮者に転じ、1981年にチューリヒ・トーンハレ管弦楽団の首席指揮者となってからというもの、エッシェンバッハの録音はそれほど多くないのである。
いや、数の問題よりも、印象の問題かもしれない。指揮者への転向と同時に、dggの専属アーティストでなくなったことが大きいのだろう。華やかなメイン・ステージを離れた男、「都落ち」した音楽家というイメージがつきまとい、日陰者あつかいされていたように思う。
しかしそれからの彼は、チューリヒに続いてヒューストン、ハンブルクと安定したポストを保ち、そして2000年にパリ管弦楽団、2003年からはフィラデルフィア管弦楽団と、着実にステップアップして、ついにメジャー・オーケストラに地位を得るまでになった。いつのまにか、指揮者としての経験も30年を超え、プロとしてのキャリアはピアニストとしてよりも長くなっている。そしていよいよ日本にも、フィラデルフィア管弦楽団の指揮者として、間もなくお目見えする。
忘れられた男エッシェンバッハは、指揮者として捲土重来を成し遂げたのか。まずは「BBC Concert」でご確認あれ。
山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963生まれ。「レコード芸術」を始め、音楽雑誌、CDのライナーなどで活躍中。クラシックの演奏史の中に現代を位置づける活動を行っている。最近特に海外盤に目立ついわゆる「ヒストリカルもの」(放送局のライブ音源をCD化したものやSPやLPの時代の録音のCD化)には滅法強い。
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